履正社医療スポーツ専門学校・理学療法学科の教室には、毎晩18時頃になると、昼間部の学生たちと入れ替わりに続々と夜間部の学生たちが集まってくる。皆、日中は職場での仕事や、別の学科・学校で勉強を終えてから登校するからか、整然とした教室の後方には大きなバッグや着替えが入った袋類が無造作に置かれている。
学生の年齢層は、昼間部と比較すると少し高め。授業も大人しいのかと思いきや、一人の学生が皆の前で完璧なデモンストレーションを行うと、歓声と拍手が上がり、場が和む。共に学ぶ仲間を応援し合っている雰囲気がよく伝わってくる。
授業の終わりぎわになると、間近に迫った定期試験で問われるのはどのあたりか、先生がポイントを語り始める。各自が聞き漏らすまいと素早くメモをとり、テキストに印をつけていく。夜間部で学ぶ学生ならではのひたむきさが垣間見えた。
院長に診てもらえば、つらい痛みがなくなる。
理学療法学科の夜間部と柔道整復学科(午前部・午後部)では、「働きながら学ぶ」学生に対する奨学金制度が充実している。在学中に病院で勤務しながら、返還不要の奨学金の支給を受ける「医療就学支援制度」がそれだ。
2021年の12月上旬、夜間部の授業に参加していた学生の一人、正木祐也さんに話を聞いた。正木さんは現在2年生。日中は兵庫県西宮市の永田整形外科で柔道整復師・運動器リハビリテーションセラピストとして勤務している。
正木さんが柔道整復師の資格を取ろうと決めたきっかけは、中学時代、軟式野球部で肘を傷め、先輩からの勧めで整骨院に通い始めたことだ。
そこで、柔道整復師である院長の知識と技術に目を見開かされた。故障の原因となっている部位を、筋肉組織だけでなく、そこを支配する神経までも考慮して探り当て、的確に治癒させていく。院長に診てもらえば、つらい痛みがなくなる。足繫く通ううちに院長との交流が生まれ、やがて正木さんは、自分もこんな風に人を痛みから救ってあげられる仕事がしたい、と思うようになった。
「周囲のチームメートが『プロ野球選手になりたい』と言っているなか、自分だけは『柔道整復師になる!』と決めていました」
高校でも野球を続け、最終学年の春大会では府大会ベスト16という成績を残して引退。卒業後は、履正社医療スポーツ専門学校の「ダブル・ラーニング制度」で、野球を続けながら柔道整復師の資格取得を目指すことに決めた。
もっと深く学んで、できることを増やしたい。
4年後、晴れて柔道整復師の国家免許を取得した正木さんは、西宮市の永田整形外科で勤務することとなる。平成9年のオープン以来、地域に根をおろし、介護支援センターも併設している病院だ。整骨院ではなく病院を就職先に選んだのは、より間口の広い環境でさまざまな治療経験を積みたいと思ったからだ。
病院では、柔道整復師も、医師の診療・指導のもと「みなしPT制度」によって、運動器(骨・筋肉・関節など)のリハビリを行う。正木さんもすぐに運動器リハビリテーションセラピストの資格を取得し、従事することとなった。
ところが、しばらくして思わぬ行き詰まりを感じることとなる。
「自分が柔道整復師になるために学んできた、ケガを原因とする運動器のリハビリはできるんですけど、脳血管の疾患でリハビリが必要な患者さんへの適切なケアが分からなかったんです」
病院で働くならば、もっと深く学んで、できることを増やしたい。その時、理学療法士の資格取得への意欲が沸き上がっていったという。
病院に勤務して3年目、正木さんは、履正社医療スポーツ専門学校の理学療法学科・夜間部に再入学することになった。仕事と勉強の両立は、想像していた以上にハードだ。
「朝は5時半に起きて、7時台に病院に着きます。8時から16時半まで働いて、その後、学校へ。21時40分まで授業を受けて、帰宅は23時です」
なかなか自分で復習したりする時間を取れないでしょう、と聞くと、「それでもやります」という答え。
「どんなに疲れていても、復習は必ず1時間以上やる。これは自分で決めているんです」
就寝は日付が変わった2時ごろ。4時間寝られたらいいほうだ。翌朝には再び5時半に起きて病院へ行く。
26歳になったばかり。プライベートも充実させたい年ごろではないだろうか。
「週に一日、日曜日は病院が休み。そこでリフレッシュの時間を持つようにしているから、大丈夫です。僕は、病院で働きながら学校に行かせてもらっているので、シフトの面で融通を利かせてもらったり、院長に勉強のコツを教えてもらったりして感謝しています。今は臨床の現場にいるから、教科書の中身が頭にすっと入ってくることが本当に多いんです。先日は股関節の手術にも立ち会わせてもらったし、週に一度のカンファレンスに参加すると、画像を見る力も格段に上がるんですよ」
イキイキとした顔で、仕事と勉強の相乗効果を語ってくれた。
目標とする「理学療法士像」は、明確だ。
「やっぱり、自分の強みは運動器です。柔道整復師の知識をあわせ持つ理学療法士として、運動器のリハビリだけは誰にも負けない、と思えるセラピストになりたいですね」