今でこそ、トレーナーとして色々な現場に立たせていただいた僕ですが、高校生の頃はトレーナーという職業についてほとんど知識はありませんでした。リハビリでお世話になった経験もなく、友人に誘われてただ「面白そう」という気持ちだけでこの世界に飛び込んだんです。蓋を開けてみると思った以上に勉強が大変で、とても苦労しました(笑)。
アスレティックトレーナーコースの先生方は、当時から現場での経験をよく話してくださいました。教科書の隅に取ったメモが、卒業後に役立ったことも多々あります。「今みてる選手、まさにこの状況やん!」って。卒業後、現場で僕が見たのが腰痛のある選手だったんですが、メモ書きには、「腰は足関節、膝、股関節と繋がっているため、足関節の動きに問題がある場合、その連動で腰を痛めることがある。だから足首もみなあかん」とあり、その選手に確認すると、以前ねんざをしていることがわかりました。それが治りきっておらず、腰に影響が出ていたようです。卒業後も教科書はよく見直します。
当時、僕の実習先は履正社高校サッカー部で、鍼灸師の資格を持つ安東由仁先生が担当でした。トレーナールームには痛みに悩む選手がよく来たんです。そこで初めて鍼灸治療を見ました。こんなのがあるんだ、面白いなって。施術後「良くなりました」と帰っていくので、ますます気になって。サッカーのトレーナーとしてやっていくなら、現場でケアのできる鍼灸師の資格を取った方がプラスになると思い、鍼灸学科へ内部進学し、さらに3年間安東先生の元で現場を学ばせていただきました。
これまで、履正社の先生方の人脈で様々な現場を経験させてもらいましたし、それが仕事にも繋がっています。石川県の星稜高校サッカー部でトレーナーを務めたきっかけも、先生の縁でした。鍼灸学科1年生の夏、奈良県で高校のインターハイがあったんです。当時の星稜高校にはトレーナーがいなかったので、以前星稜でコーチを務めていたサッカーコースの伊奈新太郎先生に監督から相談がありました。僕がサッカーコースでトレーナー活動をしていたこともあり、推薦してくださったんです。それが縁で、毎年インターハイと選手権に帯同しました。
星稜高校に本格的に携わるようになった1年目、冬の選手権でベスト4に進みました。元日本代表の本田圭佑選手が在籍していた時以来だそうです。2年目には全国大会決勝へ進みました。相手は同じ北陸勢の富山第一高校。僕はベンチにいて、選手がケガをした時は、状態をみてプレーの継続が可能か判断したり、ハーフタイムに傷の処置を行ったりしていました。ただ、後半残り5分までリードしていたのですが、1点返されて同点になり、延長戦で負けてしまったんです。それが一番悔しくて、自分でも驚くほど泣きました。表彰式の時、優勝チームを見上げている選手たちを見るとまた泣けてきて。でもその翌年には、悔しさを晴らし全国制覇することができました。自分たちより格上のチームもありましたが、気持ちで勝ったんだと思います。日本一になって見た景色は忘れられません。
本音の聞ける
関係性。
トレーナーとして壁に当たったのは、星稜のあと、ツエーゲン金沢(現在J2)で初めてプロチームをみた頃でした。学び直しの時期だったかなと思います。選手のケアが終わったら、メイントレーナーの方に対して1時間ほどマッサージを施すこともありました。「どうですか?」と尋ねても、「まだどこか残ってる、探して。」と言われて。わからないながらに、触ったり、動かしたりして、どこが固まっているかを探りました。的確にできていれば、可動域は戻ります。その他にもリハビリや鍼の打ち方など、徹底して学びました。今、履正社高校でやっていることは、あの時期がベースにあると思います。
トレーナーにとって最も大切なことは、知識や技術はもちろんですが、一番はやはりコミュニケーション能力です。学生にもそう指導しています。僕たちは選手と向き合うのが仕事。信頼関係を築けず選手が本音を言ってくれなければ、良いケアやリハビリはできません。面倒がったり気を遣ったりして言わない選手もいるんですよ。「今のあんまよくないっすね」とか「今のめっちゃいいです。動きやすくなりました」とか、ちゃんと聞きたいんですよね。その関係性を作るためにもコミュニケーションは大事にしてほしいです。学生たちも、積極的に選手と話してくれています。
現在、履正社高校サッカー部は高校サッカー界の頂点であるプレミアリーグWESTで戦っています。ガンバ大阪ユースなどJリーグ系が8チーム、東福岡など高校4チーム。高いレベルの中で戦う高校生をサポートしています。スピードがあるし当たりもハードですが、うちの子たちも負けなくなってきています。先日リーグ残留が決まりました。履正社高校の選手の子たちに、日本一の景色を見せてあげたいです。昨日より今日が進歩している。選手も僕もそう感じられるように取り組んでいます。