09 履正社の人 −RISEISHA 100 Stories

“学び直し”の楽しさを知った、
セカンドキャリアの出発点。

勝浦聡さん

理学療法士
アスレティックトレーナー
「ライフフィットジム吹田」代表

2013年 履正社医療スポーツ専門学校 理学療法学科卒業

 小学5年生でラグビーを始めて、大阪桐蔭高校、大阪体育大学と進み、トップリーグ(当時)の近鉄ライナーズ(現・花園近鉄ライナーズ)に入団しましたが、2年ほどで選手生活にピリオドを打ちました。原因は膝の痛み。最後は練習にもほとんど参加できないような状態でした。

 病院で膝の手術をした後、日常生活に戻れるように理学療法士によるリハビリを受けていましたが、退院すると理学療法士との関係は途切れてしまいます。ラグビーに復帰はしましたが、痛みや不安定感が強く、思うようなプレーができなくなっていました。その時、スポーツ専門を謳う整骨院やカイロプラクティックに通ったりしましたが、“ケガの痛み”に対する治療をしてくれることはあっても、“負担を抑えて痛くなりにくい身体の使い方”は教えてくれない。引退前、理学療法士に身体の動きを診てもらいたいと思っても、その願いは叶いませんでした。

 父親が整骨院を経営していたこともあって、現役時代から「引退後のセカンドキャリアは医療関係かなあ」と漠然と考えていました。柔道整復師や鍼灸師も選択肢としてありましたが、自分がケガをしたときの苦い経験を踏まえ、“身体の動きを診る専門家”である理学療法士を目指して履正社に入学することを決めました。

 私が入学したのは、理学療法学科の夜間部です。同級生には高校を卒業したばかりの若い人だけではなく、30代、40代の方もいました。年齢差はありましたが、みな同じ目標を持つ仲間です。切磋琢磨しながら、学び直しの楽しさを存分に味わえる充実した時間を過ごせました。

 この学校の最大の魅力は「ダブル・ラーニング」だと思います。理学療法士だけでなく、アスレティックトレーナーの資格も同時に目指せる。もちろん覚えなければいけないことは増えるし、勉強は大変でしたが、理学療法士としての幅は確実に拡がったと思います。

 印象に残っているのがテーピングの授業です。アスレティックトレーナーの講師に足の裏にテープを貼ってもらったら、それだけで身体の動きが変わったのを実感したんです。ケガをした箇所を固定して治療するためのテーピングではなく、力をスムーズに発揮させてパフォーマンスを向上するためのテーピングがあるのかと目から鱗が落ちました。理学療法士の勉強だけをしていたら、こういう方法論があることに気づくことはなかったでしょう。新しい視点が身につくことが、「ダブル・ラーニング」のメリットだと思います。

理学療法士に大切なのは観察力

 現在、私が経営する「ライフフィットジム吹田」は、筋肉を大きくして見栄えの良い身体をつくるためのトレーニングジムではありません。身体の使い方を改善し、最大限のパフォーマンスを発揮する方法を指導するパーソナルジムです。

 ストレッチで筋肉や関節の可動域を拡げ、トレーニングで体幹を鍛え、正しい姿勢と呼吸法や歩き方を身につける。野球、ゴルフ、サッカー、陸上競技……どんな競技のアスリートであっても、大切なのはこの3つです。そのうえで身体の連動性を高めることで、速く走れるようにもなれば、バットを強く振ってボールを遠くに飛ばせるようになる。

 正しい身体の使い方が重要なのは、一般の方も同じです。たとえば慢性的な腰痛に悩んでいる方は多いと思います。なぜ腰が痛くなるのでしょうか?

 一つの例として、体幹が弱いから姿勢が悪くなり、姿勢が悪いから腰に過度な負担がかかって痛みが出る。マッサージで一時的に痛みは解消するかもしれませんが、その場しのぎの対処療法では根本的な解決にはつながりません。原因を探り当て、自分で手足を動かして身体の使い方を改善することで、初めて痛みは解消できるわけです。

 履正社の学生時代、ユニークな先生がいて、今でも覚えているエピソードがあります。アニメ映画『千と千尋の神隠し』に、家族が車に乗っていて主人公の千尋が後部座席で寝ている場面があるのですが、「あの子、筋肉が過緊張している。普通、あれだけ車が揺れていたら、身体は左右に大きく揺れるのに背筋がピンと伸びている。体幹が強すぎて不自然だ」と解説していて。そこに突っ込むんか!と意表を突かれましたが、言われてみればたしかにその通り。理学療法士やアスレティックトレーナーにとって必要なのは、まさにこの“動きを診る”力なんです。

 今年から講師として履正社国際医療スポーツ専門学校の教壇に立っていますが、生徒たちには“動きを診る”ことの大切さを学んでもらいたいと願っています。

 

Profile

勝浦聡さん

Satoshi Katsuura

1984年、大阪府生まれ。大阪桐蔭高校、大阪体育大学を経て、ラグビートップリーグの近鉄ライナーズ(当時)に入団。ポジションはプロップ。競技を引退後、履正社医療スポーツ専門学校 理学療法学科(医療+アスレティックトレーナー専攻)に入学。卒業後は大阪体育大学ラグビー部でフィジカルトレーナーを務める。2021年、理学療法的なアプローチで身体の動きを改善する「ライフフィットジム吹田」を開設。現在は本校アスレティックトレーナーコースの講師も務めている