スポーツの力

2019.10.01. UPDATE

 ラグビーワールドカップ(Wカップ)2019日本大会が9月20日からスタート。世界トップクラスのラガーたちが優勝をめざして熱戦を繰り広げる中、我が日本代表は9月28日、世界ランキング2位で優勝候補の一角アイルランドを撃破するという大変な快挙をやってのけました。まさに世界中を仰天させる大勝利です。ロイター通信は「尋常ではない動揺が走った」と世界に打電。アイルランドや英国などの海外メディアも「Wカップ史上最大の番狂わせ」と相次いで速報し、「ブレーブ・ブロッサムズ」(日本代表チームの愛称)の見事な戦いぶりを称賛しました。アイルランドの公共放送RTEは予想外の敗北であることを強調しつつも、日本が前回の2015イングランド大会で南アフリカを破ったことに触れ、「(アイルランドが負ける)警告サインがなかったとは誰も言えないだろう」と指摘。前大会での南アフリカ戦に続く2大会連続のジャイアントキリングは、「もう奇跡とは言わせない」と実況アナウンサーが叫んだとおり、世界中にその実力を見せつけました。(本稿は2019年10月1日記載)

 記憶にまだ新しい前回のWカップ2015イングランド大会では、過去に2度優勝している南アフリカから、あっと驚く大金星。この時も「史上最大の番狂わせ」といわれ、世界中に大衝撃を与えました。敵陣深く攻め込んだ日本代表が、ノーサイド直前の薄氷を履むようなギリギリの最終局面で、ショット(ペナルティキック)で引き分ける事が可能だったのに、敢えて同点狙いを放棄し、勇気ある、勝つか負けるかのスクラムを選択、そして見事にサヨナラ逆転トライした。あの勝利もラグビー史に残る名勝負、ラグビーの醍醐味を存分に実感した試合でした。

 一方、その南アフリカ共和国には、ラグビーの力で国がひとつになった歴史があります。そのことはイギリス出身のジョン・カーリン氏が原作を執筆し、クリント・イーストウッド監督の映画「インビクタス・負けざる者たち」にも描かれています。先日のテレビ「金曜ロードshow」でも放映されていたので観た人も多いでしょうね。

 様々な人種が混在する南アフリカ共和国は、長い間、人口10%程度の白人が国を支配し、黒人やカラード(混血)を人間扱いしないアパルトヘイト(人種隔離政策)を続けていました。しかし国際社会からの大非難を浴びて国は孤立、Wカップやオリンピックにも出場できなくなります。そして想像を絶する苦難の果てに、ついに1991年アパルトヘイトを撤廃。反アパルトヘイトの旗手で約27年間も投獄されていた故ネルソン・マンデラ氏が、94年に選挙によって初めて黒人の大統領に就任しました。マンデラ氏は、恨みではなにも解決しないと、人種を超えて共に歩む道を模索する中、白人社会の象徴的な存在であるラグビーに着目しました。当時の代表選手のうちカラード1人以外は全員が白人。白人のスポーツであったラグビーを、黒人も一緒に応援することで人種の垣根を乗り越えようと考えたのです。

 Wカップ1995南アフリカ大会では「ひとつのチーム、ひとつの国」のスローガンのもと代表チームが勝ち進んでいくと、マンデラ氏の期待通り、国中がひとつとなって勝利を望み応援するようになっていきました。ついには世界最強といわれるニュージーランド代表「オールブラックス」を決勝戦で制し、優勝したのです。
「スポーツには、世界を変える力があります。人々を鼓舞し、団結させる力があります。それはなにものにも代えがたいものです。人種の壁を取り除くことにかけては、政府もかないません」とマンデラ氏は語っています。Wカップ1995南アフリカ大会を大統領就任1年で、再出発する国家の基礎づくりに繋げて大成功に導いたのでした。

 スポーツを極めようとすると身体が鍛えられ、技が磨かれ、より高みに達しようとする努力の過程で精神力も鍛えられ、人として大きく成長していきます。そして真摯に向き合う熱情はまわりの人々にも伝わり、大きな力を生み出すのではないでしょうか。スポーツの力。皆さんにもスポーツの力を様々な形で体感し、その力を得てほしいと思っています。

 最後に、原作や映画名でも使われている「インビクタス」は、27年間の投獄中にマンデラ氏の心を支えた詩の題名に由来しています。ラテン語で「負けない」「不屈」を意味するこの詩の作者は、英国の詩人ウィリアム・アーネスト・ヘンリー。彼自身が人生のさまざまな逆境に向き合い、『I am the master of my fate, I am the captain of my soul.』と、わが魂の救済、心の奥底からの不屈の叫びを詠っています。

『INVICTUS – William Ernest Henley』
Out of the night that covers me,
Black as the Pit from pole to pole
I thank whatever gods may be
For my unconquerable soul.
In the fell clutch of circumstance
I have not winced nor cried aloud.
Under the bludgeonings of chance
My head is bloody, but unbowed.
Beyond this place of wrath and tears
Looms but the Horror of the shade,
And yet the menace of the years
Finds, and shall find, me unafraid.
It matters not how strait the gate,
How charged with punishments the scroll.
I am the master of my fate:
I am the captain of my soul.

『インビクタス(Invictus)ウィリアム・アーネスト・ヘンリー』
私を覆う漆黒の夜
鉄格子にひそむ奈落の闇
私はあらゆる神に感謝する
我が魂が征服されぬことを
無惨な状況においてさえ
私はひるみも叫びもしなかった
運命に打ちのめされ
血を流しても
決して屈服はしない
激しい怒りと涙の彼方に
恐ろしい死が浮かび上がる
だが、長きにわたる脅しを受けてなお
私は何ひとつ恐れはしない
門がいかに狭かろうと
いかなる罰に苦しめられようと
私が我が運命の支配者
私が我が魂の指揮官なのだ

[出典:Wikipedia]

2019年10月
学校法人履正社 理事長